2019.09.02
Chief Human resources Officer.坂元俊介
私自身が、4年前に母方の家業である和菓子屋を継いだことで、リクルート出身ということも相まって、その後様々なケースの事業承継における社員間の人材トラブルの相談を受けることが増えました。
その中で、良く相談を受ける、つまりトラブルが起きやすいケースがあることに気づきました。
そのケースとは、「高学歴の息子さんが、どこか別の会社で10~20年ほど働いた後に中小・中堅企業の親族企業を事業承継したケース」です。
自分自身で言うのも何ですが、世間一般からすると私もこのケースに含まれる事業承継ですので、自身の時の具体例も踏まえてご説明させて頂きます。
往々にして、高学歴の息子(娘)さんは、ある一定以上の一流企業と呼ばれる企業に勤めていたケースが多く見られます。
この場合、いくつかのビジネスにおけるいくつか特性が身に着きます。
・非常に合理的に物事を判断するようになる(システム的に物事を考えるようになる)
・社員の一定の退職は当たり前であり、人は足りなければ採用するもの、という考えになる
・仕事、というものに対して非常に高いレベルでのアウトプットを求めるようになる
そんな息子さんが、中小・中堅企業である親族企業を事業承継するとどうなるのでしょうか?
一流企業を辞めて事業承継しているので、
まず大前提、
「より企業を成長させたい!」
という想いを持っていることがほとんどです。
そのため、改善思考を持ちながら、企業変革を行おうとします。
そういった意識を持った状態で、
私の場合もそうだったのですが、まず社内を見渡すと、
「なぜ、こんなことをしているのか?」
という今まで自分が経験してきた会社での仕事の進め方や考え方と比べて、
「?」が至る所に目につきます。
私で言うと、
・なぜこの仕入れ業者を使っているのか?
・なぜ、新しい仕入れをする際に、相見積もりをとらないのか?
・なぜ、この経費処理をしているのか?
・なぜ、この商品はこの金額で売られているのか?
・なぜ、人の配置はこんなにも無駄が多いのか?
etc…
具体的に上げていけば、キリがない程の、なぜ?、が連発でした。
そして、親族、という甘えもあり、その「なぜ?」を、先代や社員さんに遠慮なく言ってしまいます。
社員さんの中には、もちろん、継がれた息子さんよりも年上の方、何だったら息子さんが生まれる前からその会社さんで働かれている方もいるでしょう。
その中で培われた経験や商慣習、もちろん慣れなどもある中で、いきなり、超合理的な意見がバシバシ飛んでくるのです。
私が相談を受けたケースでは、客観的に聞くと、意見としては、ほとんどは息子さんが正しいことの方が圧倒的に多いです。
しかし、その意見の中で1つでも間違っていることがあれば、
「あいつは頭でっかちで何もわかっていない!」
となるわけです。
こうなると両者の意見は相いれず、トラブルが勃発します。
もし、息子さんが、「自分に就いてこない社員さんは辞めていい!」というお考えをお持ちであれば、そのまま自分が感じたままに意見を言い続ければいいでしょう。
ただし、自分の前職の会社と比べた時に、どれほど優秀な社員さんを採用するのが難しいのかを、後になって知ることでしょう。
それは、息子さんがいきなり経営から入るのでなく、ちゃんと現場に入り、最低でも1年、長ければもっと現場で経験を積んでから、しっかりと社員さんの信頼を勝ち得たうえで、少しずつ、それでもおかしいと思う点を、意見し変えていくことが、最もトラブルなく会社を変えていくことが出来るでしょう。
かくいう私も、最初は現場の社員さんや先代と揉めたのち、このままではいけないと現場での経験を1年ほど積む間に少しずつ、雪解けされていきました。
現場にしっかり入ることで見えてくるものもあります。
中小・中堅企業には、合理的な判断だけでは割り切れない、縁や馴染み、といった考え方があり、それが意外と企業を強く支えているケースがあります。
ある技能に特化した社員さんがおり、その社員がいることで企業が成り立っているケースがあります。
温故知新、とはよく言ったもので、今までのその企業の中にある文化や伝統を知り、大切にしながらも、変えるべきところを上手く変革していく、という姿勢をもつことで、承継された息子(娘)さんと社員間のトラブルも解決されるでしょう。
坂元 俊介
栄久堂吉宗(和菓子屋) 代表代行
株式会社リング(採用コンサルティング会社) 代表取締役
株式会社STORY(キャリア系教育ベンチャー) 取締役
株式会社edu.Life(事業承継支援・相続支援ベンチャー) 役員
経歴
2007年に、新卒として株式会社リクルートHRMK(現リクルートジョブズ)に入社。
営業、営業企画、営業リーダー、大手担当と部署を変更しながら、その中で、営業として新規メディアの立ち上げを3つ経験。中小企業を中心に、リクルートメディアを使った採用支援をおこなう。
その後、マーケティングベンチャーにて大阪オフィス長を3年半経験した後、30歳になるタイミングで、家業である江戸時代から続く和菓子屋を事業承継。同タイミングで、採用コンサルティング会社も立ち上げる。
2016年6月、キャリア系教育ベンチャーの立ち上げに参画、取締役に就任。
2018年2月、自身が事業承継をした経験と採用・人事ノウハウを融合し活用するために、株式会社edu.Lifeの立ち上げに参画、役員に就任。